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主殿頭が無用の殺生をする話 3

この章家がある年の正月、霊験あらたかと聞こえ高い寺へ詣でたことがあった。
その道中、共を従えて進む道筋に野焼きの跡に少しばかり焼け残った草が
茂っているのを見るや
「この草むらの中にはきっと兎がいるに違いない」
下郎をやって追わせた所、なるほど子兎が六羽ほどまろび出てきた。
「見たことか、やはり兎が隠れおる」
章家はそう得意げに言ったかと思うと『火を放って焼き払え』と命じたから
家来どもは皆口々に
「年の初めにせっかく寺に詣でようというのですから、そのような罪作りなどは
よろしくありませぬ。せめて寺を詣でた帰りにでも」
と止めたが、そんなことに耳を貸す章家ではない。
馬から下りて自ら草むらに火を放つ始末である。

しかし、草むらの中には大した獲物もおらず、先の子兎の親かと見える兎が一羽
走り出たのみだったので早速にそれを打ち殺す。
子兎は家来どもの子でもくれてやろうと寺詣もそこそこに屋形へと帰った。

さて、屋形の入り口には平べったい大きな石を据えて、板間へ上がる踏み石にして
あったが、何を思ったか章家
「さきほどの子兎はどこか」
と聞いたので、家来どもはそれぞれ幼い女童に抱かせて連れてきた。
「この上でちょっと這わせてみようか」
六羽の子兎を一度に抱いた章家は、まるで母親が小さな子供をあやすように
「可愛い子だ可愛い子だ」
と歩かせたから、家来ども『あの殿も人と変わらぬ』と顔を見合わせ吹き出した。
やがて、章家に女童と子兎というかつてない妙な合わせを触れ回る者も出て
屋形中こぞって囃し立てた。

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