もっとわからない何か。

子幸次郎

むかーしむかし、ざーっとまあ昔のことだって。 

爺と婆があった。
爺は家の裏の池に棲んどるカニに毎日毎日握り飯くれてやって
ココウ次郎って名前付けてかわいがっていたって。

ある日、婆が悪いもんだから「爺がいん内にカニみんな喰ってやるべ」って思って
握り飯作って池持ってって「ココウ次郎ココウ次郎」って呼んだら、でるでる
カニどもワサワサたくさん出てきたもんだから、婆は残らず捕らえて煮て食ってしまった。
爺に知れたら叱られっから、甲羅はみーんな垣根の向こうさ投げておいたって。

そこへ、爺が戻ってきて婆に握り飯作らせて、いつもみたいに池持ってったって。
だども「ココウ次郎ココウ次郎」って何ぼ呼ばわっても、カニ一匹も出てこね。

爺は不思議がって毎日毎日池行って「ココウ次郎ココウ次郎」って呼ばわったども
そんでもカニは出てこなかったって。

ある日のこと、爺んとこに烏が棒一本持って飛んできて

        か あ ら わ か き ね
                        
      (殻は垣根)

                み わ ば ん ば
                                    
   (身は婆)

            そ と み を め し と ば
                                 
 (外見が可愛けりゃ)

           か き ね は も と み れ
                                     
 (垣根の下見ろ)

  こ こ う じ ろ う は げ に あ は れ
                                 
(ココウ次郎はげに哀れ)

って地面さ書いたって。

爺、急いで垣根のとこ行って見たら、カニの甲羅たくさん散らばってた。

爺、泣いて泣いて、婆のこと恨んだもの。
「烏が言うとおりにしてやるべ」って鎌にがにが研いで、婆のとこ行ったってさ。

 

山猫が猿のけつ、ぶっ裂いた。
こいで話はおしまい。

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主殿頭が無用の殺生をする話 4

「年の初めに四足の肉を食わねばめでたくもない」

章家はそう言ったかと思うと、平べったい踏み石の上に両手にささげた
六羽の子兎を一度に打ちつけた。
章家と一緒に子兎と戯れていた女童は勿論、周りで囃していた家来どもは
生きた心地もなにもあったものではない。
日ごろから荒事にこなれ、常に章家の狩り殺生に共してきた侍どもにしても
年の初めの今日のような日に、このような殺生を平然とするのを見ては
まこと人とは思えぬ悪鬼の仕業かと震え上がった。


家来どもが一斉に立ち上がって逃げ去った後、一人残された章家は
それを介す風もなく、平然とその肉を焼いて食った。

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主殿頭が無用の殺生をする話 3

この章家がある年の正月、霊験あらたかと聞こえ高い寺へ詣でたことがあった。
その道中、共を従えて進む道筋に野焼きの跡に少しばかり焼け残った草が
茂っているのを見るや
「この草むらの中にはきっと兎がいるに違いない」
下郎をやって追わせた所、なるほど子兎が六羽ほどまろび出てきた。
「見たことか、やはり兎が隠れおる」
章家はそう得意げに言ったかと思うと『火を放って焼き払え』と命じたから
家来どもは皆口々に
「年の初めにせっかく寺に詣でようというのですから、そのような罪作りなどは
よろしくありませぬ。せめて寺を詣でた帰りにでも」
と止めたが、そんなことに耳を貸す章家ではない。
馬から下りて自ら草むらに火を放つ始末である。

しかし、草むらの中には大した獲物もおらず、先の子兎の親かと見える兎が一羽
走り出たのみだったので早速にそれを打ち殺す。
子兎は家来どもの子でもくれてやろうと寺詣もそこそこに屋形へと帰った。

さて、屋形の入り口には平べったい大きな石を据えて、板間へ上がる踏み石にして
あったが、何を思ったか章家
「さきほどの子兎はどこか」
と聞いたので、家来どもはそれぞれ幼い女童に抱かせて連れてきた。
「この上でちょっと這わせてみようか」
六羽の子兎を一度に抱いた章家は、まるで母親が小さな子供をあやすように
「可愛い子だ可愛い子だ」
と歩かせたから、家来ども『あの殿も人と変わらぬ』と顔を見合わせ吹き出した。
やがて、章家に女童と子兎というかつてない妙な合わせを触れ回る者も出て
屋形中こぞって囃し立てた。

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主殿頭が無用の殺生をする話 2

昔、肥後守として任地にあった頃、章家には目に入れても痛くないほどに
可愛がっていた一人の男児がいたが、ある日俄かに流行病を発して明日をも
知れない命となったことがあった。

章家はそこかしこの薬師を呼び寄せ、八方手を尽くして看病し、それでも一向に
病の癒えないのを嘆き悲しんでいたにも拘らず、よく晴れた日には必ず鷹狩に出た。

結局、その子は死んでしまったが、母親は泣き伏し、女房や侍どももみな
「可愛い若さまであったのになあ」と思い起こして涙に暮れる中で、章家一人は
「死んだものは死んだのだ」とその日も揚々と狩りに出かけて行ったから
親類縁者はもとより、侍、下使いの者に至るまで情けないと思わぬものはない。

伝え聞いた偉い坊さんなどは人にも増して心には憎く思ったが、まさか守に向かって
『憎い』などとは言えようはずもなく
「これは正気の沙汰ではない。きっと物怪が憑きおるものに相違ない」と
口を濁した。

 

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主殿頭が無用の殺生をする話 1

今は昔のこと。

主殿頭※1で源章家とかいう人がいた。
武士の家の生まれでこそなかったが、その性の残虐非道なことと言ったら
毎日生き物を殺すのを楽しみにするような有様で、普通の人には考えられ
ないようなことをすることも度々あった。

  ※1主殿頭(とのもりのかみ)
  宮中内裏の調度品や消耗品を管理する主殿寮で偉い人。でも貴族としてはあんまり偉くない。

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